世界と日本のコンテンツ事業者の皆様へ
IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース
代表 江崎 浩
2011年6月8日に予定されている「World IPv6 Day」の開催に向け、日本のISPのWorld IPv6 Day対応等の状況について、以下の通りにご案内申し上げます。特にコンテンツプロバイダーの皆様は、ぜひご覧下さい。
また、World IPv6 Dayとその対応についての詳細は「
World IPv6 Dayへの対応について(第1版)」(PDF、205kb)としてもまとめております。こちらもあわせてご覧下さい。
1.IPv6インターネット接続の準備状況
日本のISP業界では、数年前よりIPv4アドレス枯渇対策の一環として、IPv6インターネット接続サービスの導入を進めてきました。先行して導入されている法人向けのインターネット接続サービスに加え、コンシューマー向けのサービスでも2007年からトンネル方式でのサービスを導入しているOCNに加え、昨年(2010年)以来、主要各社によりサービスが導入されています。
2010年にはブロードバンド契約数で約9.7%のシェアを有する ソフトバンクBB(※1)において、6rd方式によるIPv6インターネット接続サービスが提供開始されました。利用者が最も多いFTTHインターネットアクセスサービス(※2)を提供するNTT東西においては、フレッツ光ネクスト(NGN)で、2009年にトンネル方式とネイティブ方式の2つの方式によるインターネット接続の仕組みが公表され、今年4月以降準備が整い次第、NTT東西とISPにより提供開始される予定でした。しかしながら今年3月に発生した東日本大震災など諸般の事情により、今日時点ではまだ提供開始されておらず、現在提供に向けて準備が進められているという状況です。
一方、FTTHインターネットアクセスで約9%のシェアを持つKDDIについては、4月18日以降順次IPv4/IPv6デュアルスタックのインターネット接続環境を提供することを発表しています。このように日本のISPにおけるIPv6インターネット接続サービスの提供は着実に進んでいます。
(※1)総務省2011年3月16日発表 2010年12月末時点の電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データ
(※2)同発表では、FTTH契約者数1977万、うちNTT東西シェア74.5%
2.World IPv6 Dayへの本来あるべき対応
World IPv6 Dayは基本的に6月8日、24時間だけのトライアルですが、インターネットのIPv6への移行は、サービスやアクセスの提供者のみならず利用者も含めたすべてのインターネット関係者にとっての中長期的な課題です。従って、これに対する問題があれば、中長期的視野で解決する必要があります。それは、エンドユーザーがIPv6のアドレスとそれを利用できる宅内環境を持ち、ISPがIPv6によるインターネットアクセスのリーチャビリティ(到達性)を提供し、サイトなどサービス提供者がIPv6でサービスを提供することにあります。このような環境が実現することが最終ゴールです。しかし、これを実現するネットワークやサービスの提供は一般のエンドユーザ向けにはまだ広く普及しておらず、大半のユーザーがIPv6に対応した環境に移行するためには今後少なくとも数年はかかると予想されています。
3.日本で考えられている対処方法
World Ipv6 Dayで発生すると予想される問題に対しては、日本ではインターネット利用者への影響を考慮して、以下のような対処方法が考えられています。
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ポリシーテーブルの導入
日本では、NTT東西のフレッツのFTTHサービスが閉域網のサービスのためにIPv6アドレスをエンドユーザーに割り当てていることから、IPv6に対応している端末の場合、自動的にIPv6アドレスが設定されます。そのため、インターネット上のサービスがAAAAレコードを登録した場合、閉域網用のIPv6をソースアドレスとしてサービスを利用しようとします。ISPがIPv6の接続性を提供している場合にはマルチプレフィックスのソースアドレスセレクションの問題が発生します。提供していない場合にはIPv6からIPv4へのフォールバックが発生し、IPv4にフォールバックするまでの1秒から30秒程度の遅延が生じる可能性があります。
これに対しては、WindowsではRFC3484(※3)で規定されているポリシーテーブルを記述することで問題を回避することができます。しかしながら一般ユーザーには困難な作業であることが予想されるため、業界関係者の間ではポリシーテーブルを記述するソフトウェアを開発し、6月8日までに配布することが検討されています。
(※3)RFC3484 "Default Address Selection for Internet Protocol version 6 (IPv6)
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AAAAフィルターの導入(暫定的な対策)
ローカルオンリーのIPv6環境及び実験的なIPv6トンネルの利用において、通信の遅延、スループットの低下や通信の断裂を避けるために、IPv6グローバルリーチャビリティ環境を完全に持っている端末やアプリケーションに対してのみ参加サイトのAAAAレコードを通知するという仕組みが考えらます。このためには、ISPのDNSにIPv6トランスポートによるアクセスに対してのみAAAAレコードを応答するというフィルターを挿入する手法があります。
本フィルターについては、Bind 9.7以降のバージョンにおいて実装がされており、設定することにより動作させることが出来ます。
World IPv6 Dayに対応したAAAAフィルターの運用は日本のISPにより実施される予定です。
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フォールバックによる対応
ポリシーテーブルによる対応を行わず、ISPがエンドユーザーに提供するDNSサーバーにおいてAAAAフィルターを提供しない場合は、IPv6からIPv4へのフォールバックが発生し、利用者はIPv4のサービスを利用することになります。
4.結論
日本では多様なインターネットアクセス環境が存在することから、一般にも発生する閉域網とオープンなインターネットとのマルチプレフィックス問題など、先進的な課題についても鋭意取り組んでいます。日本では多様なパターンでの事例の検証を進めており、World IPv6 Dayの当日発生する事例について、世界に対してその結果をフィードバックし情報を提供していきたいと考えています。今回のWorld IPv6 Day参加サイトに対する日本のユーザーからのIPv6によるアクセスは、日本におけるデュアルスタックの環境が十分に整備されていないため、それ程多くないかもしれません。しかし今後日本のISPがIPv6インターネット接続サービスを提供し、一般ユーザーのIPv6インターネットアクセス環境が充実するにつれ、次回以降のWorld IPv6 Dayにおいてはより多くの日本のユーザーがIPv6化されたサービスを利用すると予想されます。
また、今回得た知見に関してはRFCやBCPなどを通じてインターネットコミュニティに対して還元して行く所存です。
以上